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豊饒の海・暁の寺

豊饒の海・第3巻「暁の寺」を読み終える。

1巻の侯爵の息子「清顕」は、2巻では若い学生「勲」に生まれ変わり、

この3巻では「勲」はタイの王女に生まれ変わり、それぞれが本多と再開し関わる。

清顕の書いた夢日記と3つのホクロを持つことにより、同一人物が転生していくことを確認する判事(弁護士)本多の目を通して物語は進行していく。

3巻の最初の方は舞台がタイで取材的でとても明るい情景描写。

それもつかのま、舞台がタイからインドに変わると、今度は生と死が隣り合わせのぞっとするような情景描写を描き、仏教やヒンズー教の輪廻や転生、パラモンの教えなどについて、読者に事こまかに説明する。

難しくて私にはほとんど理解できなかったのだが、頭脳明晰な三島の中では理解していたのかもしれない。

後半は筆の力が急に軽くなり読みやすくなる。

富を得た主人公(本多)や周囲の人たちが堕落している様子をおぞましく描いている。


1巻では、清顕は己に対して「己の愛」を貫いて死んだ。

2巻では、清顕の生まれ変わりの勲は世の中に対して「己の志」を貫いて死んだ。

3巻では、勲の生まれ変わりの月光姫はコブラに噛まれて意味もなく死ぬ。

その月光姫も、外見や行動ばかり描写され、心理描写が欠け、心や魂の入っていない人形が動いているようである。

中盤から終わりにかけての話の展開が、今までの計算しつくされたストーリー展開や文章の切れ味と全く違う。

筆力が急に弱くなっていく。結末等もとってつけたような説明である。

3巻を通して、何を伝えたいのだろうか?

たとえば、今、何百号もする大きな絵を見るとする。

ある一部分に目をむけると印象絵画のように色彩豊かで、またルネサンス絵画のように装飾的でほっとする。

また他の部分に目を移すと、細密に描かれ超リアリズムさに驚嘆させてくれる。

またある部分は曼荼羅の絵、宗教画、ある部分は官能絵画、風刺画、そして心象絵画・・・

同じ一枚の絵に全て入っていると、見る者を混乱もさせてしまう。


それと、1巻・2巻では本の中に作者の強い悲しみと怒りを感じた。

この3巻では恐怖と諦め・嘲笑を感じた。

では、次の4巻では?



以前の三島の作品も読んでいないし、性格もわからないのだが、この時点でふと想像したのは・・・

三島も作家として物を書き始めた時は、清顕のように純粋な文学青年だった。

世の中が変わっていくなかでも、作家生命をかけて命がけで訴えたい、勲のような強い志も持っていた。

が、作家として世間にも認められ、賞ももらい、長期連載をしたりと経済的にも豊かになっていたはずである。

読者からの反響もあり、反論もあったと思う。

知らず知らずのうちに純粋に芸術や文学のためではなく、読者を喜ばせるための内容を書いていたりもした。

彼は思ったのかもしれない。

以前より世の中も日本人としての精神・誇りも汚れてしまった。自分の志もゆがんできている。

自分も小説の中の本多のように、世の中の汚れをただ覗いているのではないだろうか?。

もしかしたらそれをどこかで楽しんでいることはないだろうか?

またそれで自分の生活を豊かにしてはいないだろうか?


自分の志は?いったい、どこに行ってしまった?

自分の愛する尊敬する清き日本はどこに行ってしまった?

どこに向かおうとしているのだ?


インドに行くと人生観が変わる人が多いという。三島にとっても衝撃的で、記憶力・感受性の強い三島ならなおさらのこと。

本を書き進めるうちに、さまざまな思いがはっきりと見えてきたのだと思う。


テーマでもある「輪廻・転生」については最初は単なる面白い小説の中の材料に過ぎなかったのかもしれない。

それが、だんだんと自分の中に重くのしかかっていき、書く本の世界に引きずりこみ、彼になにかしらの影響を与えていたと思う。


彼が次の4巻を書き終えた直後に死を選ぶが、すでにこの時点で心を決めていたのだと思う。

結末にむけての内容がどこか上の空のように感じるのもそのためなのかもしれない。

あるいはこれだけの内容を長期に書くことにより、精神的消耗・疲労・鬱状態で力抜けてしまったり、そういった時にしてはいけない誤った判断をして実行してしまったとも考えられもする。


といったようなことは、まさに勝手な私の推測で、当時の本人や周辺の人、三島を研究する人にしかわからない。

それにこれだけの心血を注いだ作品を読ませてもらっているのに、こうして内容よりも、作者に結び付けてあれこれ推測しているのは本当は失礼かもしれない。

ただ絵を観賞する場合、絵を見て綺麗だと思って通り過ぎるうような絵より、「どんな心境で描いた絵なのだろう?作者って?」と思わせてくれる絵の方が、絵に魂が入っている心に届く絵だと思う。

そういう面で、どちらかというと、本の内容よりも、どちらかという作者の方が気になってしまったことを大目に見てもらえたらと思う。

次の4巻で、また何かがわかるかもしれない。


・・・・・・・

4巻を予約した。

プリンスエドワード島や赤毛のアンの写真集も予約した。

豊饒の海を読み終えたら、今度は綺麗な写真で美しい世界に癒されてみたい。

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Last Modified : 2019-08-08